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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)138号 判決

東京都大田区大森西1丁目1番1号

原告

日本電熱株式会社

同代表者代表取締役

西川忠克

同訴訟代理人弁理士

小川信一

野口賢照

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 清川佑二

同指定代理人

中村彰宏

井上元廣

幸長保次郎

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成2年審判第7748号事件について平成6年4月25日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和60年9月30日、名称を「採暖具自体に発生する害虫の駆除方法」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和60年特許願第217509号)したが、平成2年3月9日に拒絶査定を受けたので、同年5月10日に審判を請求した。特許庁は、この請求を平成2年審判第7748号事件として審理し、平成5年3月30日出願公告したが、特許異議の申立てがあり、平成6年4月25日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をした。

2  本願発明の要旨

発熱素子を備えた採暖具自体に発生する害虫を駆除するときに、該発熱素子を用いて採暖具の表面温度を通常の採暖温度より高い高温レベルの温度とし、害虫が駆除されるに必要な時間加熱するようにした採暖具自体に発生する害虫の駆除方法。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  「衛生動物」第7巻第1号(昭和31年、日本衛生動物學会発行)の27頁ないし37頁(以下「引用例1」という。)には、畳等に発生する害虫を駆除するときに、発熱装置を用いて害虫が駆除されるに必要な時間加熱するようにした害虫の駆除方法が記載されている。

また、「月刊消費者」1月号(昭和60年1月1日、財団法人日本消費者協会発行)の5頁ないし14頁(以下「引用例2」という。)には、発熱素子を備えた採暖具表面温度を通常の採暖温度より高い高温レベルの温度として必要な時間加熱し得るようにした採暖具が記載されている。

(3)  本願発明と引用例2記載の発明とを対比すると、両者は、採暖手段において、「発熱素子を備えた採暖具表面温度を通常の採暖温度より高い高温レベルの温度として必要な時間加熱し得るようにした」点で同一であるものの、本願発明は、害虫の駆除のために必要な時間加熱するようにした害虫の駆除方法であるのに対して、引用例2記載の発明は、単に採暖のために必要な時間加熱するように構成させた採暖具である点で相違している。

(4)  そこで、上記相違点について検討する。

一般的に、畳等に発生する害虫を駆除するときに、発熱装置を用いて害虫が駆除されるに必要な時間加熱するようにした害虫の駆除方法は、引用例1に記載されているように本出願前周知の技術であることから、該周知の技術を用いて、引用例2記載の発明において採暖具の加熱素子自体を活用することにより必要な時間加熱することによって採暖具の害虫の駆除方法とするようなことは当業者が容易になし得る程度の事項にすぎない。

そして、本願発明の効果は、引用例2に記載された発明及び上記本出願前周知の技術がそれぞれ有する効果から当業者であれば容易に予測できる程度のものである。

(5)  したがって、本願発明は、引用例2に記載の発明及び上記本出願前周知の技術から当業者であれば容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)(但し、引用例1に、害虫が「畳等に発生する」と記載されているとの部分は除く。)、(3)は認める。同(4)、(5)は争う。

審決は、相違点の判断を誤り、かつ、本願発明の奏する顕著な効果を看過して、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  相違点の判断の誤り(取消事由1)

〈1〉 本願発明は、カーペットあるいは敷物等に設けた発熱素子を利用して、そのカーペットや敷物自体に発生する害虫を簡単に駆除する方法を得ることを目的として、その要旨のとおりの構成を採用したものであり、その結果、電気カーペットや電気敷物等そのものに発生するダニ等の害虫を、それ自体の加熱源である発熱素子を有効に利用して、必要とするときに採暖と直接関係なく積極的に害虫を駆除することができるので、害虫駆除のためにわざわざ別の発熱物を用いたり、殺虫のための薬剤や他の駆除手段を用いる必要がないという利点を有するものである。つまり、本願発明は、害虫を駆除したいときに、採暖とは直接関係なく害虫の駆除に必要な温度と必要な時間積極的に加熱するところに特徴がある。

したがって、本願発明の進歩性を否定するためには、(a)採暖貼体に害虫が発生すること、(b)その採暖具自体に発生する害虫を駆除すること、(c)その害虫駆除を、他の手段を用いずに採暖具の採暖のための発熱素子そのものを利用して行うこと、(d)害虫を駆除したいときに、採暖と直接関係なく積極的に、害虫が駆除されるに必要な温度で必要な時間加熱して害虫を駆除すること、という構成を開示する公知、周知資料が必要である。

しかるに、引用例2には、発熱素子を備えた採暖具の温度を単に高い温度にするようにした採暖具が記載されているにすぎず、また、引用例1には、単に害虫を駆除するときに、他の発熱装置を用いて害虫が駆除されるに必要な時間加熱するようにした害虫の駆除方法が記載されているだけであって、上記(a)ないし(d)の事項については開示されていない。

また、引用例1には、害虫が「畳等に発生する」とは記載されていないし、引用例1のみによって、畳等に発生する害虫を駆除するときに、発熱装置を用いて害虫が駆除されるに必要な時間加熱するようにした害虫の駆除方法が本出願前周知の技術であるとはいえない。

したがって、引用例2記載のものにおいて、採暖具の加熱素子自体を活用することにより必要な時間加熱することによって、採暖具の害虫の駆除方法とするようなことは当業者が容易になし得る程度の事項にすぎないとした審決の判断は、誤りである。

〈2〉 被告は、採暖具にダニ等の害虫が発生すること、この害虫を駆除しようとする課題は従来周知であった旨主張するが、そのような事実を認めるべき証拠はない。

本願公告公報(甲第2号証)の1欄23行ないし2欄12行の記載は、公知あるいは周知の技術として記述しているのではなく、あくまでも本願発明の動機、出発点の説明として記述し、それによって本願発明の理解を容易にし、かつ正確にしてもらうために出願人自身がその技術知識として理解していたことを述べたにすぎない。上記部分に記載の従来技術は公知事項でも周知事項でもないのである。

被告は、乙第1号証及び第2号証により上記事実を立証しようとしているが、上記乙各号証は、審判段階において審理の対象とされていなかったものであるから、本訴において審理の対象とすることはできないものである。仮に、上記乙各号証が審理の対象となり得るとしても、乙第1号証には、採暖具ではない単なる寝具や畳類を減圧下で高周波加熱して害虫を駆除することが、乙第2号証には、コナダニは高温に対してきわめて弱く、高温で死滅することだけがそれぞれ記載されているにすぎない。

(2)  顕著な効果の看過(取消事由2)

本願発明は、「採暖具そのもの、つまり電気カーペットや電気敷物等そのものに発生するダニ等の害虫を、それ自体の加熱源である発熱素子を有効に利用して駆除することができるので、害虫駆除のためにわざわざ別の発熱物を用いたり、殺虫のための薬剤や他の駆除手段を用いる必要がないという利点を有し、採暖具にダニ等の害虫が発生した場合、その加熱温度と加熱時間を制御するだけでその採暖具自体の害虫を駆除できるので経済的であり、能率的である。」という効果を奏するものである。これらの効果は、引用例1及び2記載の技術を組み合わせても奏し得ないものであるし、また、到底予測することもできないものである。

しかるに、審決は、本願発明の上記のような顕著な効果を看過し、容易に予測できる程度のものであると誤って判断したものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

採暖具は通常の状態では単なる敷物や畳類と実質的に同等のものであり、これらの敷物や畳類と同様に、採暖具にもダニ等の害虫が発生するものであり、この害虫を駆除しようとする課題は従来周知であった。

本願公告公報(甲第2号証)には、従来技術として、「従来、屋内の床面等に敷設して用いられている採暖具の周辺、上部または内部にはダニ等の害虫の発生があり、物理的駆除方法としてマイクロ波や高周波を利用した駆除方法により害虫を駆除していた」(1欄23行ないし2欄12行)と記載されていることからしても、原告は、採暖具自体に害虫が発生し、これを駆除する技術が従来存在していたことを認めているのである。

また、害虫を駆除するためには、引用例1や乙第2号証に記載されたとおり、「35℃以上の温度で必要時間加熱すればダニ等の害虫が死滅する」ことも従来知られていたのである。したがって、採暖具を加熱すれば害虫を駆除するという目的が達せられることは、当業者にとって自明のことである。

そこで、加熱の仕方としては、採暖具の外側から加熱するか、または内側から加熱するかのいずれかしかないのである。そして、加熱方法として採暖具を内側から加熱する方法を採用する場合は、引用例2に示されているような発熱素子の備わっている採暖具(電気毛布)において、発熱素子自体の発熱により35℃以上の温度が得られることが知られているのであるから、かかる発熱体を活用して、採暖具の表面温度を通常の採暖温度より高いレベルの温度(35℃以上)に発熱素子を必要な時間加熱することにより、害虫を駆除する方法に想到することは、当業者であれば何らの困難性を伴うものでもない。

審決が、本願発明は引用例1の周知技術を用いて引用例2から当業者が容易になし得る程度の事項と判断したのは、以上のような理由によるものであり、その判断に誤りはない。

なお、引用例1には、「害虫が畳等に発生する」という事項の明記はないが、審決において「畳等に発生する害虫」と表現したのは、引用例1の実験はダニに関するもので、ダニは畳やカーペット、敷物等に発生することは自明の事項であるので、「害虫」を説明する表現として追加したものであり、この点の審決の認定に誤りはない。

(2)  取消事由2について

採暖具に発生するダニ等の害虫を駆除しようとする課題は従来知られており、また、引用例1には35℃以上の温度で必要時間加熱すればダニ等の害虫が死滅することが記載されており、更に、引用例2には採暖具を採暖温度以上、即ち35℃以上の温度に加熱することができることが記載されているので、結局、引用例2における発熱素子を利用して35℃以上に必要時間加熱すれば、害虫駆除の効果が生じることが予測され、そうであるとすれば、別の発熱物を用いたり、殺虫剤や他の駆除手段を別に用いる必要がないので、経済的で、能率的であるという効果が予測し得るのである。

したがって、本願発明の効果は両引用例から容易に予測し得たとする審決の判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)、3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、引用例1及び2に審決摘示の事項が記載されていること(但し、引用例1に、害虫が「畳等に発生する」と記載されているとの部分を除く。)、本願発明と引用例2記載のものとの一致点及び相違点が審決認定のとおりであることについても、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉  本願明細書の発明の詳細な説明中の〔従来の技術〕と題する箇所には、「最近、採暖具では温水パイプや電気ヒータ、その他の発熱素子をパネル、カーペット、敷物あるいは畳等に配設して、採暖を行なうようにしたものがある。従来、屋内の床面等に敷設して用いられている採暖具の周辺、上部または内部には害虫の発生がある。屋内の塵中の害虫は適度な湿度や温度により繁殖する。・・・これらのダニは化学的駆除方法として、・・・薬剤を用いて駆除される。また、物理的駆除方法としては、マイクロ波や高周波を利用した誘電加熱駆除方法がある。その他の駆除方法としては繁殖・生息部又は被処理体を日干しにする方法によって害虫を駆除している。」(甲第2号証1欄19行ないし2欄12行)と記載されていること、また、乙第1号証(特開昭58-157468号公報、昭和58年9月19日公開)には、「寝具や畳類は・・・ダニや虫が生育する格好の場所でもある。従ってこれら寝具や畳類をその内部まで短時間に乾燥でき且つ殺ダニ、殺虫、殺卵、殺菌できれば衛生上非常に好ましい」(1頁右下欄1行ないし6行)、「本発明は上記のような課題を解決することを目的とするものであり、この目的は、寝具・畳類を20~300Torrの減圧下に高周波誘電加熱することにより達成されることを見出した。」(同欄11行ないし14行)と記載されていることが認められる。

本願明細書及び乙第1号証の上記各記載によれば、寝具や畳類、採暖具自体にダニ等の害虫が発生すること、そしてその害虫を駆除しようとする課題は、本願出願当時においてよく知られた事項であり、害虫駆除のために種々の方策が講じられていたことが認められる(なお、乙第1号証は審判手続において審理の対象とされていないが、上記のように、本願出願当時における技術水準を認定するための資料として用いることは何ら差し支えないものというべきである。)。

次に、引用例1(甲第3号証、昭和31年4月1日発行)に、発熱素子を用いて害虫が駆除されるに必要な時間加熱するようにした害虫の駆除方法が記載されていることは、当事者間に争いがなく、また、引用例1には、「各温度にダニを接触させた時間と死亡率との関係を・・・示した。50、47℃の高温では1~2秒で殆ど瞬間的に乾燥死滅、45℃では2分9秒で完全死滅、42℃では7分42秒、40℃では11分17秒、38℃では15分58秒、35℃では52分15秒で完全死滅した。」(30頁右欄23行ないし28行)、「高温の影響を顕微鏡用加温装置及び熱電堆を用いて実験した。高温に対する抵抗は従来想像されていたより甚だ弱く、35℃以上は致死高温帯であり、50℃、47℃では瞬間的に死滅する。」(36頁右欄下から6行ないし3行)と、乙第2号証(青木淳一著「ダニの話」昭和58年3月31日7版・北隆館発行)には、「高温に対してはきわめて弱く、ケナガコナダニの場合、50度や47度の高温では1~2秒でほとんど瞬間的に死亡、45度では3分たらずで完全に死滅、42度では8分、40度では11分あまり、38度では16分たらず、35度では52分あまりで死滅することがわかった。」(83頁1行ないし4行)と、それぞれ記載されていることが認められる。

引用例1及び乙第2号証の上記各記載によれば、ダニ等の害虫は高温に対してきわめて弱く、発熱装置を用いて必要時間加熱すれば駆除することができるものであることは、本願出願当時において周知の事項であったものと認められる(なお、乙第1号証は、審判手続において審理の対象とされていないが、上記周知事項の認定につき、引用例1を補充するにすぎないものであるから、本訴において認定資料とすることは何ら妨げられるものではない。)。

上記のとおり、本願出願当時において、採暖具自体に害虫が発生すること、及びその害虫を駆除しようとする課題は、本願出願当時においてよく知られた事項であって、害虫駆除のために種々の方策が講じられていたものであり、また、ダニ等の害虫は、必要時間加熱すれば駆除することができることが周知の事項であったものであるところ、引用例2には、発熱素子を備えた採暖具表面温度を通常の採暖温度より高い高温レベルの温度として必要な時間加熱し得るようにした採暖具が記載されている(このことは当事者間に争いがない。)のであるから、採暖具におけるこのような加熱手段・態様を、採暖具自体に発生する害虫の駆除に活用しようと想到することは、当業者にとって格別困難なこととは認められない。

審決の説示には若干説明不足の点が存することは否めないが、相違点の構成につき当業者が容易になし得る程度であるとした判断は、その結論において誤りがあるとは認められない。

〈2〉  原告は、本願発明の進歩性を否定するためには、(a)採暖具自体に害虫が発生すること、(b)その採暖具自体に発生する害虫を駆除すること、(c)その害虫駆除を、他の手段を用いずに採暖具の採暖のための発熱素子そのものを利用して行うこと、(d)害虫を駆除したいときに、採暖と直接関係なく積極的に、害虫が駆除されるに必要な温度で必要な時間加熱して害虫を駆除すること、という構成を開示する公知、周知資料が必要であるところ、引用例1及び2には、上記(a)ないし(d)の事項については開示されていない旨主張する。

まず、採暖具自体に害虫が発生すること、その害虫を駆除することが周知の事項であることは、本願公告公報の1欄19行ないし2欄12行の上記記載から明らかである。

この点について原告は、本願公告公報の上記記載は、公知、周知の技術として記述しているのではなく、あくまでも本願発明の動機、出発点の説明として記述し、それによって本願発明の理解を容易にし、かつ正確にしてもらうために出願人自身がその技術知識として理解していたことを述べたにすぎず、上記記載の従来技術は公知事項でも周知事項でもない旨主張する。

しかし、上記記載は発明の詳細な説明中の〔従来の技術〕と題する箇所に記述されているものであり、その内容及び乙第1号証の前記記載に照らしても、上記事項が周知であることを前提として記述されているものであることは明らかである。

次に、害虫駆除を、他の手段を用いずに採暖具の採暖のための発熱素子そのものを利用して行うこと、害虫を駆除したいときに、採暖と直接関係なく積極的に、害虫が駆除されるに必要な温度で必要な時間加熱して害虫を駆除することといった点について、引用例1及び2には直接的には開示されていないが、採暖具自体に害虫が発生することや害虫を駆除しようとする課題が周知であったことは上記のとおりであり、引用例1及び乙第2号証によれば、ダニ等の害虫は高温に対してきわめて弱く、発熱装置を用いて必要時間加熱すれば駆除することができることは、本願出願当時において周知の事項であったものと認め得ること、引用例2には、発熱素子を備えた採暖具表面温度を通常の採暖温度より高い高温レベルの温度として必要な時間加熱し得るようにした採暖具が記載されていることからすれば、上記各事項は容易に想到し得るものであると認めるのが相当である。

なお、引用例1には、害虫が「畳等に」発生するとは記載されていないが、この認定の誤りが審決の結論に何ら影響を及ぼすものでないことは明らかである。

〈3〉  以上のとおりであって、相違点についての審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

本願明細書には、本願発明の効果として、「本発明はあくまでも採暖具そのもの、つまり電気カーペットや電気敷物等そのものに発生するダニ等の害虫を、それ自体の加熱源である発熱素子を有効に利用して駆除することができるので、害虫駆除のためにわざわざ別の発熱物を用いたり、殺虫のための薬剤や他の駆除手段を別に用いる必要がないという利点を有するものである。即ち、本発明は暖を採るための採暖具であって、その採暖具にダニ等の害虫が発生した場合、その加熱温度と加熱時間を制御するだけでその採暖具自体の害虫を駆除できるので経済的にも、能率的にも大きい効果を有する。」(甲第2号証5欄2行ないし6欄2行)と記載されていることが認められる。

しかし、上記効果は、本願発明の構成を採用することにより当然予測し得るものであるところ、上記構成を採用することは、前記のとおり当業者において容易に想到し得るものであるから、上記効果をもって格別のものとすることはできない。

したがって、本願発明の効果は、当業者であれば容易に予測できる程度のものであるとした審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

3  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がなく、審決に取り消すべき違法はない。

よって、原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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